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最高裁判所第二小法廷 昭和40年(オ)1378号 判決 1967年9月29日

上告人(被告・控訴人・兼被附帯控訴人) 杉山利通

上告人(同) 犬飼定男

上告人(同) 宮田義博

右三名訴訟代理人弁護士 野田底司

同 若山資雄

被上告人(原告・被控訴人・兼附帯控訴人) 医王寺

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人野田底司の上告理由第一点について

所論の権利濫用ないし信義則違反に関する抗弁を排斥した原審の認定および判断は、挙示の証拠により、これを是認することができる。所論は、ひっきょう、原審の右認定を非難し、右認定にそわない事実を前提として原判決を非難するに帰し、採用することができない。なお、差戻前の上告審判決の拘束力に関する所論は、独自の見解であって、採用のかぎりではない。

同第二点について

所論の宗教法人令一一条に関する原審の判断は正当であり、原判決に所論の違法は存しない。所論は、違憲をいう点もあるが、その実質は、ひっきょう、原審の右判断を非難するに帰し、採用することができない。なお、同条三項によれば、所論の履行責任ないし損害賠償責任の主体は、寺院又は教会の主管者であって、被上告人ではないことが明らかであるから、この点に関する所論も採用することができない。また、損害金に関する原審の認定も、挙示の証拠により、これを是認することができるから、この点に関する所論も、採用のかぎりではない。

上告人らの上告理由第一点について

宗教法人令一一条三項によれば、所論の履行責任ないし損害賠償責任の主体は、寺院又は教会の主管者であって、被上告人ではないことが明らかであるから、論旨第一点は原判決の結論に影響を及ぼすものではない。それ故、所論は採用することができない。

同第二点ないし第九点について

所論の点に関する原審の認定および判断は、挙示の証拠により、これを是認することができる。所論は、ひっきょう、原審の前記認定および判断を非難するに帰し、採用することができない。なお、宗教法人法(昭和二六年法律第一二六号)に関する所論は、原判決の結論に影響を及ぼすものでないことが明らかであるから、この点に関する所論も、採用することができない。

同第一〇点ないし第二一点およびその余の上告理由について

所論の点に関する原審の判断は、挙示の証拠により、これを是認することができ、原判決に所論の違法は存しない。所論の実質は、ひっきょう、原審の認定にそわない事実を前提として原判決を非難するに帰するものであって、採用することができない。なお、宗教法人法に関する所論は、原判決の結論に影響を及ぼすものではないから、この点に関する所論も採用のかぎりではない。

上告代理人若山資雄の上告理由について

所論の点に関する原審の認定および判断は、挙示の証拠により、これを是認することができる。所論は、ひっきょう、原審の右認定および判断を非難するに帰するものであって、採用することができない。<以下省略>

(裁判長裁判官 奥野健一 裁判官 草鹿浅之介 裁判官 城戸芳彦 裁判官 石田和外 裁判官 色川幸太郎)

上告代理人若山資雄の上告理由

第一点原判決は法令の解釈にあたり、信義誠実の原則に違反した違法がある。

原判決理由は、上告人等と被上告人との間の本件土地の賃貸借契約について、その効力を判断するにあたり宗教法人令第十一条の宗派主管者の承認を要することについて、宗派主管者が土地の賃貸借については同条の適用がないと誤解し、かつて不動産の賃貸借について承認を求めてきた事例がないとしても、それは強行法規に反するので、賃貸借契約が右承認を得ずして有効となるものではないと判示した。

宗教法人令第十一条が、その目的寺院所有財産の保護にあることは明らかであるが、これが解釈に際しては信義則もまた適用せられなければならないことも当然である。

原判決は所詮寺有財産の保護の目的達成のためには、如何なる善意無過失の第三者の損害をも顧慮せず、これを犠牲にしても止むを得ないとの見解に立つものであって、信義則を毫も考慮に入れていない。

右信義則とは何か、即ち宗教法人令第十一条の主管者の承認を受けずになした行為は無効とする規定は、右承認を得なければ有効とならない趣旨に他ならないのであるから、本件の場合において、被上告人が上告人等と自ら賃貸借契約を締結した以上、被上告人はこれが契約を有効ならしめるよう努力すべきであることは、取引の信義誠実の原則に照し多言を要しないところである。

されば被上告人において、主管者の承認がなければ無効であることを知ったときは、その承認を求める手続を採るべきは、これまた事理の当然であるといわなければならない。

蓋し、同条の主管者の承認手続は、寺院の恣意によって自己の便宜に使い分けを許す趣旨のものとは到底解することができないからである。

従って、現在においても、右主管者の承認に終期がない以上、被上告人は主管者に対し承認手続を採るべきであり、主管者より承認或は不承認の意思表示があって、はじめて本件賃貸借の運命有効か、無効かが決するものというべく、それまでは本件賃貸借の効力は未確定の状態に在るものである。

宗教法人令第十一条の主管者の承認を本件賃貸借の効力発生要件とする旨の規定を解釈するに際しては、誠実なるべき契約当事者として被上告人に対し、主管者の承認手続を採るべき責務を要求することは、はたして行過ぎであろうか、善意無過失の取引の相手方を保護すべきは法令を通じ、またその解釈に当っても常に考慮される大原則ともいうべき理念であることを思えば、本件の場合、被上告人の右責務は十分に肯定し得るところと信ずる。

被上告人は、いま主管者の承認手続を採っても遅くないのである。

原判決は信義則を遺忘し右の点に対する判断を欠き、ひいて法律の解釈を誤った違法あるものである。<以下省略>

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